第1回:終わった後の話

    七詞:
    終わった話から始まるっていうのは、中々面白いよね。
    普通さ、こういうゲームって「始める」「続ける」なのに、このゲームは最初「終わる」一択っていう。
    睦眼:
    そうだな。
    さちが、死んだ後に私たちでさちを語る。
    故人を偲び、悼むーー。この物語の最初がそれだ。
    七詞:
    睦眼さんは、さちが何歳の時にここにきたんだっけ。
    睦眼:
    彼女が中学一年生の時だ。
    その頃から、自己と世界の別が解るようになるのかもしれない。
    七詞:
    ぼくはさちが小学生くらいだったかなー。最初はあんまり可愛がってもらえなかったからか、僕がクマからネコになってもさち、気づいてくれなかったんだ…
    んで、最初は睦眼さん、さちのこと本当に遠くからしか見てなかったから、ぼくも殆どお話ししたことなかったよね。でも、格好いいなーって思ってた。
    睦眼:
    見守ることが、猫の愛なんだ。
    七詞:
    かーっこいー!
    さちは生まれた時から死を望んでいたって云っているけれど、それがなぜかはわかるの?
    睦眼:
    そもそも彼女は望まれて生まれなかったのだ。
    「殺したら犯罪になるから」生かされているだけ。
    死んでしまった方が、誰もが喜ぶ存在なのだ。
    七詞:
    どういう状況なの…?
    睦眼:
    この国の、昔の風習なのだが「人」より「家」が大切なのだ。
    「家」から出て行く「女児」という「人」は不要なのだ。家にとって。
    「家」とは「苗字」。女児は家の外に出、苗字が変わるもの。家にとって不要なのだ。
    七詞:
    ふーむ。そういう文化があるってことだね。
    睦眼:
    そう。
    彼女は、誰にも必要とされずに生まれ、生きていた。
    愛しくてならない。
    七詞:
    睦眼さんのその愛も結構狂気だよね。
    睦眼:
    そうか?
    七詞:
    うん。
    猫は、人の心の中を渡り歩くって云うけれど、なんで猫ってそんな変な生態持っているの?
    睦眼さんがさちの所にずっと居たってことは、そうしなければ死んじゃうとか、そういうことじゃないんだよね?
    睦眼:
    猫は飽きっぽいだけだ。
    飽きたら別の人間の所に行く。
    私は、生涯、死んでもさちの側に居たかった。それだけだ。
    七詞:
    なるほど。
    …いっぱい気になることがあるんだけど、いい?
    睦眼:
    構わない。
    七詞:
    猫って、最大でどこまで眼が増えるの?
    どのタイミングで眼が増えるの?
    睦眼:
    本当かは知らないが、「佰眼」と云う猫が居ると聞いたことがある。
    佰眼氏は全身に眼があるとのことだ。
    七詞:
    こっわ…。
    睦眼:
    そこまで長生きをしたと云うことだろう。
    七詞:
    睦眼さんは、もう眼は増えないんだよね。
    睦眼:
    どうだろうか。
    もう一つの質問に答える形になるのかな。
    七詞:
    お、そうそう。
    睦眼:
    住んでいる人間の転機が起こると、眼が増えることが多いようだ。
    七詞:
    詰まり、睦眼さんの眼が増えた時は、さちの心に転機があったってこと?
    そしたらだいぶ、コロコロ変わったねって感じ。
    だってさちが死んだのって中学卒業の日だよね。
    睦眼:
    生きるのに、必死だったのだろう。
    中学が終われば義務教育も終わる。独り立ちができる。
    だが、さちは良くも悪くも「家」に「囲われて居た」。一人で生きることが可能であるが能力がなかった。
    七詞:
    その葛藤ってことかー。
    それでさちは、結局死を選んだ。
    睦眼:
    そう。重い決断だ。
    七詞:
    さすがさちだなー。
    睦眼:
    それを含めて、さちは素晴らしい。
    七詞:
    と、そろそろ終わりの時間になっちゃった。
    第二回は、終わった日の話だからさちが出てくるかな。
    睦眼:
    それでは、また次回。
    七詞:
    ばいばーい!