第5回:始まりの日
語り部:
さて、前回も登場してくれたが。
嘘と理だ。
理:
こんにちは。
この物語は、ぼくと嘘がまだ一匹の猫だった時のお話だね。
嘘:
「幸せ」とは世の中が世の中以上に美しく見える。
理:
そうだね。
同じ風景でも、幸せな時とそうでない時では見え方が違うよね。
ぼくらが一匹の猫だった時とそうでなくなった時、セピアは同じ世界でも全く違って見えていたんだね…。
語り部:
二人は、別れた時の記憶は殆どないのかい?
理:
うん、いつの間にか、一人だった。
何でぼくは存在しているのか、解らなかった。
嘘:
それは俺も同じだ。
別れてすぐは、きっとまだ俺と理は殆ど同じ思考を持っていたに違いない。
嘘:
俺はそのあと、匣を拾って二人で暮らすようになった。
嘘:
前のコラムでもあったが、嘘と匣は同じなんだ。
真実の反対である嘘と、真実の一部を隠す匣。真実の一部を隠して相手に伝えれば、それは相手が嘘を信じることと同義。
語り部:
ばれない嘘をつくコツは、できるだけ真実に近いことを云うーーってやつだね。
嘘:
そうだ。嘘をつくと云う事は、自分が作った物語を覚えておくということだからな。
理:
ぼくは、霧と会うまでずっと一人だったな。
ねぇ、嘘はぼくと別れた時はただの黒猫だったと思うけれど、なんでそんなに包帯巻いているの?沢山怪我したの?
嘘:
理を探すために、結構無茶をしたんだ。
それでも見つからなくてーー諦めてしまった。ごめん。
理:
ううん。ぼくの方こそ、多分嘘を思い出すのが遅かったんだと思う。
セピアはーーなかなか幸せに向かおうとすらしなかったんだろうね。
語り部:
セピアが幸せを求めたから、二人はお互いを探し始めたのか?
理:
多分、そうだと思う。
ぼくらはまた元の猫に戻れるはずなんだ。
物語中では、戻っていないけれど。
嘘:
それは詰まり、幸せになりたいと思うようにはなったが、幸せにはなれていないってことだろうね。
語り部:
最後にぼくが読者さんに問いかけをしているけれど、二匹の猫がつながっている一匹の猫は全ての人が飼っているんだよね。
その猫の尻尾がちゃんとつながっていると云うことは幸せだということ。
理:
うん。
ぼくらはセピアの猫だけれど、貴方の猫もいるんだよ。
嘘:
もし、俺たちのように離れ離れになっていたら、まずは二匹を会わせて欲しいね。それから、どうしたら元に戻るか、考えよう。
理:
誰だって幸せになれるし、なる権利があるんだよ。
語り部:
二匹を会わせよう、元の姿に戻そうーー詰まり、幸せになろうーーと思うことが大切だってことだね。
理:
セピアがそう思ってくれなかったら、ぼくらはきっと会えなかった。
語り部さんが云うように「幸せになろう」って思うことが、大切なんだと思うよ。
嘘:
俺たちはセピアの一部だからな。
さて、時間もそろそろだしこのコラムの終わりもそろそろじゃないか。
語り部:
セピアと、誰を呼ぼうかなとは思っているよ。
終焉は、近い。
今日は二人ともありがとう。